2024.04.18
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時間外労働の上限規制とは?企業がとるべき対応についても解説

(最終更新日:2024.11.14)

時間外労働の上限規制とは?

時間外労働の上限規制とは、労働基準法で定められた範囲を超えて労働させる時間数に一定の上限を設け、不当に長時間の労働をさせないようにすることを目的とした制度です。時間外労働の上限規制において気を付けなければならないのは、勤怠管理をしっかり行って時間外労働の長時間化を防ぐことです。

勤怠管理では従業員一人ひとりの勤務状況を把握する必要がありますが、他の業務と並行して行うことは、実態としてとても困難ともいえます。また、勤怠管理システムの見直しや法改正に伴うシステムの変更など、なかなか対応が追いつかないところもあります。

ナテックでは、勤怠管理をよりラクに、より楽しく行える勤怠管理システム「FUN勤怠」など、勤怠管理ソリューションを提供しています。「勤怠管理の見直しをしたい」「法改正に対応したシステムにしたい」など、勤怠管理についてのお悩みは、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

時間外労働の上限規制とは

時間外労働

近年、働き方改革が進んできたことを受けて、時間外労働に対する考え方が大きく変化しました。時間外労働の上限規制は2019年4月の法改正により、新たに時間外労働の時間数の上限を規定したものです。この上限規制に違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。

 

時間外労働の上限規制の内容

改正前の規定では、使用者への罰則がなく、いくらでも時間外労働をさせることができましたが、法改正により「月45時間以内」「年360時間以内」が原則としての上限とされました。ただし、1年単位の変形労働時間制を採用している場合は「月42時間以内」「年320時間以内」となります。

また、業務の内容によっては、臨時的に原則の上限時間を超えて労働させる必要が出てくる場合があります。この場合は「月100時間未満」「年720時間以内」「上限を超えることができる月が6回まで」という上限に変更可能です。

いずれの場合でも、労使協定を締結する際に上記の内容も定めておく必要があります。

出典:時間外労働の上限規制|厚生労働省

 

時間外労働の上限規制の目的

時間外労働を抑制することで労働時間とそれ以外の時間のバランスが取れるようになり、ワークライフバランスの改善を図ることが目的です。

女性や高齢者などの労働者にとっても、労働時間が少なくなった時間を仕事以外のことに使うことができるようになるため、結果として労働参加率の向上につながるでしょう。

 

上限規制の開始時期

時間外労働の上限規制は2019年4月から、一部の業種を除く大企業・中小企業(※)にて施行されました。ただし、一部の業種(建設業・自動車運転の業務・医師)については5年間の経過措置として2024年4月から正式に施行されました。

(※)中小企業の定義については、以下の通りです。

産業分類 資本金の額・出資の総額 常時使用する労働者の数
小売店(飲食店を含む) 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 300人以下
その他の業種 2億円以下 300人以下

出典:中小企業・小規模企業者の定義|中小企業庁

施行が猶予されていた業種については、急に一般の業種と同様の時間外労働の上限規制を適用させることは業務の内容などから鑑みて難しいといえるため、特例措置を設けたうえでの施行となっています。

 

あわせて確認したいポイント

時間外労働の上限規制が導入されることで、あわせて確認しておくべきポイントがいくつかあります。

 

月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の割増率の引上げ

時間外労働をさせる場合には、25%以上の割増賃金の支払いが発生しますが、1か月当たりの時間外労働が60時間を超えると50%以上の支払いが必要です。こちらについても2019年4月の改正により大企業について施行され、中小企業については2023年4月から施行されました。

 

年次有給休暇の年5日間の取得義務

年次有給休暇の年5日間の取得義務の規定は、2019年4月より施行されました。年次有給休暇が10日以上付与された方(パートやアルバイト等も含む)について、最低でも年5日以上有給休暇を取得させるもので、違反すると1人につき30万円以下の罰金が科されます。

出典:労働基準法 第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇|e-Gov法令検索

 

【補足】36協定とは

36協定

36協定とは、会社が労働者との間で時間外労働や休日出勤をどれくらいさせるかについて話し合ったうえで締結された協定のことです。労働基準法第36条に規定されていることから36協定と呼ばれます。

36協定を締結しないで時間外労働や休日出勤をさせてしまうと違法となります。時間外労働などをさせる場合は必ず36協定を確認し、締結するようにしましょう。

 

時間外労働・休日労働の定義

時間外労働・休日労働とは、具体的にどのようなものを指しているかについて見ていきます。

 

時間外労働とは

時間外労働とは法定労働時間を超えて労働させることを言い、法定労働時間は労働基準法により規定されている労働時間の上限のことで、「1日8時間」「週40時間」とされています。

一般的に時間外労働は会社が就業規則等で定めた労働時間(所定労働時間)を超えて労働した時間のことを指しますが、法定労働時間を所定労働時間と設定している場合が多いです。

 

休日労働とは

休日労働とは、本来であれば休日とされている日(法定休日)について勤務をさせることを言い、休日労働をさせた場合は、通常の賃金とは別で35%以上の割増賃金の支払いをする必要があります。

出典:労働基準法 第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇|e-Gov法令検索

 

36協定の原則

36協定は労働者と会社との間で労使協定を締結することで、時間外労働・休日労働をさせることができるようにする内容となります。

 

36協定において規定する内容

具体的には、以下の内容について規定する必要があります。

ア 時間外労働・休日労働を必要とする業務の内容

イ 業務に従事する労働者の人数

ウ 1日・1か月・1年間における時間外労働の時間数・休日労働の日数等

 

どのような場合に締結が必要か

労働基準法において、原則として時間外労働・休日労働はさせてはならないとされていますが、業務の内容などによっては時間外労働や休日労働を要する場合が考えられます。

そのような事態に備えて、あらかじめ会社と労働者との間で時間外労働や休日労働の必要性などについて話し合うことで、時間外労働・休日労働を例外的に認めるための手続きを行う必要があります。

 

36協定の特別条項

特別条項は、原則的な上限規制(月45時間・年360時間)を超える時間外労働をさせる必要がある業務などが発生することが見込まれる場合において、例外規定として、原則の時間外労働・休日労働の上限時間を超えて時間外労働・休日労働を行えるようにしたものです。

「年720時間まで」「休日労働を含み2~6か月のそれぞれの期間の月平均で80時間以内」「単月で100時間未満」「原則である月45時間を超える特別条項の適用は年6回まで」という規定の範囲内で、原則的な上限規制を超えて時間外労働をさせることができます。

特別条項が適用される具体的な例としては、「突発的な発注内容の変更への対応」や「想定外のクレーム対応」等が挙げられます。

出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

 

時間外労働の上限規制の適用が猶予・除外される業種

議論をする労働者たち

時間外労働の上限規制の適用は2019年4月より施行されましたが、業種や業務内容によってはその上限規制の施行を猶予・除外される場合があります。これらの規制は2024年3月末まで施行が猶予されますが、具体的にはどのように対応することになったかを見ていきます。

 

規制適用が猶予されている業種

時間外労働の上限規定の適用を猶予されている業種は、建設業・運送業・バスやタクシーの運転手などの自動車運転業・医師・鹿児島県及び沖縄県での砂糖製造業です。

具体的にどのような理由で規定の適用が猶予され、2024年4月からはどのような形で規定が適用されるようになるかを見ていきましょう。

 

建設業

建設業は「長時間労働の常態化」「人材不足の深刻化」であるため規定の施行が延期され、2024年4月以降は、他の業種と同様に長時間労働・休日出勤の上限規制の適用が開始されることとなります。

 

運送業

運送業は長時間・過重労働による「脳・心臓疾患の労災認定」の件数が全業種で最も多く、過労死等の防止の観点から時間外労働の上限規制に対する改善を求められていました。しかし、運送業の労働時間(「拘束時間」)は「労働時間+休憩時間(仮眠時間を含む)」によって計算されるため、原則的な上限規制はそぐわないと考えられていました。

2024年4月以降の拘束時間については、以下の通りです。

  • 1日 :13時間以内(上限は15時間)
  • 1か月:284時間以内(労使協定により310時間まで延長可能)
  • 1年:3,300時間以内(労使協定により3,400時間まで延長可能)

※改善基準公示における「拘束時間」とは、始業時刻から終業時刻までの時間を指します。

 労働時間だけでなく、仮眠を含めた休憩時間も含まれます。

 

医師

医師については医師法に基づく特例基準により、医師の健康を確保するための規制を行っていますが、地域医療の確保と医療技術の向上という観点から時間外労働の上限の基準を設けていました。

2024年4月からは、以下のような基準となります。

  • 原則的な水準:月100時間未満、年960時間まで
  • 特例水準:月100時間未満、年1,860時間まで

 

鹿児島県及び沖縄県での砂糖製造業

鹿児島県及び沖縄県での砂糖製造業は離島で行われる季節的な業務であり、人材を確保することが困難であるなどの背景から、上限規制の適用が延期されていました。2024年4月以降は、上限規制の内容が適用(他の一般的な業種と同じ扱い)となります。

 

規制適用から除外されている業務

時間外労働・休日出勤の上限規制が除外される業務として、「新技術や新商品等の研究開発業務」が挙げられます。これは業務の性質上、その遂行方法を当該業務に従事する労働者の裁量に大幅に委ねる必要があるため、使用者が具体的な指示をすることが困難とされているためです。

とはいえ、時間外労働が長時間になりやすいため、月100時間を超える時間外労働をした労働者は医師の面接指導を受けさせなければならないとされており、受けさせなかった場合は50万円以下の罰金が科されることがあります。

出典:労働安全衛生法 第七章 健康の保持増進のための措置 第十二章 罰則|e-Gov法令検索

 

違反となる時間外労働のケース(具体例)と罰則

時間外労働の違反ケース

時間外労働の上限規制の違反となるケースとはどのようなものがあるか確認しましょう。

 

36協定を締結せずに従業員に残業をさせる

原則として、法定労働時間を超えて労働させることは禁止されています。そのため、36協定を締結しないで時間外労働をさせると、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。

 

1か月の残業時間が100時間以上となる

1か月の法定外残業時間と休日労働時間の合計が100時間を超えて労働させた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に科されます。

 

2~6か月の残業時間平均が80時間を超える

連続した2~6か月における時間外労働の1か月当たりの平均が80時間を超えた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

 

1か月の残業時間が45時間を超える月が年7回以上ある

1か月あたりの時間外労働の時間数が45時間を超える月が年7回以上となると、36協定を締結していたとしても、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

なお、これらの規定に違反した場合の罰則の対象は会社(使用者等)に対してであり、従業員に対して罰則は科されません。また、36協定を締結して時間外労働・休日出勤をさせた場合であっても同様に罰則が科される恐れがありますので、36協定の締結内容はしっかりと確認するようにしてください。

出典:労働基準法 第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇 第十三章 罰則|e-Gov法令検索

 

時間外労働の上限規制に対して企業がとるべき対応

オフィスで働く従業員

時間外労働の削減を行うことは、身体的・精神的な負担の軽減につながり、企業全体の生産性の向上につなげることができます。また、人材採用においても大きなアピールポイントになるでしょう。

時間外労働を削減し時間外労働の上限規制を遵守するために、会社としてどのような取り組みができるかを確認しましょう。

 

労働時間の現状を把握する

自社の現在の労働時間がどうなっているかを把握するには、タイムカードの記録などを確認することが挙げられます。

ほかにも、勤怠管理システムなどを活用すれば、現状の時間外労働がどれくらいになるかを調べられます。

 

残業申請制を導入する

残業申請制は、残業が見込まれた場合において、従業員があらかじめ上長に対して残業を申請することで時間外労働を認める制度です。

残業申請制の導入により残業予定が明確になるため、職場内における「先に帰りにくい雰囲気」をなくし、必要以上の時間外労働を抑制することにもつながります。

また、残業申請があった分が時間外労働の時間数となるため、時間外労働の上限規制を意識して時間外労働の調整ができます。これにより従業員が行う業務量も容易に調整でき、従業員の職場環境の改善も期待できるでしょう。

 

ノー残業デーを設定する

企業が定めた日において、一切の残業をしない日として「ノー残業デー」の制度を導入し、時間外労働の削減を図る取り組みを行う会社が増えています。「ノー残業デー」のメリットとしては、「決まった日に必ず定時で退社することができるため予定を立てやすい」「業務の配分や作業の進捗管理を行いやすくなる」などが挙げられます。

しかし、繁忙期のように業務量が増える時期については無理に設定する必要はありません。ノー残業デーを導入する場合は就業規則に規定するなど、すべての従業員に周知させることが重要です。

 

労働時間を管理する仕組みを構築する

労働時間の状況の改善を行うためには、現行の法令における規定がどうなっているか等を把握したうえで、適切かつ正確に状況管理を行うことが大切です。

具体的な方法として「勤怠管理システム」の導入があります。従業員の出社時間から退勤時間までの労働時間を的確に管理するとともに、時間外労働の時間数の管理にも役立てることで、適切な労働時間管理ができます。

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まとめ

2019年4月より施行された「時間外労働の上限規制」により、時間外労働・休日出勤の上限が明確に規定されました。また2024年4月からは、時間外労働の上限規制が猶予されていた「建設業」「運送業」「医師」等についても正式に規定が施行され、早急な対処が急務となっています。

時間外労働は普段から労働時間の管理・把握を行うことで削減でき、結果として従業員の働き方や就業環境が改善されます。

勤怠管理システムなどを活用し、時間外労働のより一層の削減につなげましょう。

 

監修者プロフィール

岡崎壮史 社会保険労務士

岡崎 壮史  社会保険労務士

生命保険の営業として、生命保険や個人年金といった資産運用などに関する業務を担当する。

平成26年9月に1級FP技能士の資格を取得。その後、平成27年11月にFPの国際ライセンスであるCFPを取得。資格取得後は、保険や個人年金以外の様々な金融資産の運用や活用についてのセミナーや金融関係のサイトへの執筆・記事監修などを行う。

平成29年9月にマネーライフワークスを設立。

現在は、助成金を活用した企業の労務環境改善コンサルタントとして、労働者・事業主に対して職場環境の改善に向けた企業研修や助成金活用セミナーと保険などの金融商品を活用した資産運用についてのサイトへの記事の執筆や監修なども行っている。